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東京地方裁判所 昭和36年(行モ)15号 決定 1961年10月07日

申立人 中央労働委員会

被申立人 株式会社天田製作所

主文

被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁昭和三六年(行)第五五号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決に至るまで、申立人が昭和三六年五月八日中労委昭和三五年(不再)第七号事件につき被申立人に対してした命令のうち、松本博、三宅孝吉、浅名勝次、田口克夫および中村盛義をそれぞれ原職または、これと同等の職に復帰させる限度において右命令に従わなければならない。

(裁判官 吉田豊 吉田良正 北川弘治)

〔参考資料〕

緊急命令申立書

申立の趣旨

上記当事者間の御庁昭和三六年(行)第五五号行政処分取消請求事件の判決が確定するまで、

被申立人は、総評全国金属労働組合埼玉地方本部天田製作所支部組合員松本博、同三宅孝吉、同浅名勝次、同田口克夫、同中村盛義に対する昭和三四年六月二五日付の解雇を取り消し、原職またはこれと同等の職に復帰せしめなければならない。

との決定を求める。

申立の理由

1 申立外松本博、三宅孝吉、浅名勝次、田口克夫、中村盛義以上五名は、いずれも株式会社天田製作所(以下「会社」という。)の従業員であつたが、会社は昭和三四年六月二五日付で上記五名を解雇した。

総評全国金属労働組合埼玉地方本部天田製作所支部(以下「支部」という。)は、昭和三二年七月の結成当初は組合員約一八〇名を擁していたが、会社の組合運営に対する支配介入行為により昭和三四年六月には上記組合員五名のみとなつた。この間、会社の親睦会の構成員が中心となつて株式会社天田製作所労働組合が結成されている。

昭和三四年六月一三日支部が上部団体(総評全国金属労働組合埼玉地方本部および川口・蕨地区協議会)の指令、決定にもとづいて同さん下の富士文化工業支部争議を支援するための第一波連帯行動を、正午から四五分間の休憩時間中に実施したことを契機として、会社は同日以降支部組合員六名の就労を拒否したので、支部は、これら会社の行為は同人らが支部組合員であることを理由とするもので、労働組合法第七条に該当する不当労働行為であるとして、昭和三四年六月一六日埼玉県地方労働委員会(以下「埼玉地労委」という。)に救済申立を行なつた。さらにまた、会社は同年六月二五日付をもつて、支部を脱退した一名を除く上記五名を解雇したので、支部は同年六月三〇日前記救済申立の追加変更を行なつた。

埼玉地労委は、上記申立について審査の結果、昭和三五年三月一七日付でつぎのとおりの命令を発した。

「(一) 被申立人会社は、申立人総評全国金属労働組合埼玉地方本部天田製作所支部組合員松本博、同三宅孝吉、同浅名勝次、同田口克夫、同中村盛義に対する昭和三四年六月二五日付の解雇を取消して、原職またはこれと同等の職に復帰せしめ、且つ右解雇の日から前記の職に復帰するまでに同人らが受けるはずであつた諸給与相当額を支払わなければならない。

(二) 被申立人会社は、左記の誓約文を縦五〇糎、横八〇糎の木板に墨書して、被申立人会社川口工場の正門前に五日間掲示しなければならない。

誓約文

当会社が貴支部組合員に対し組合旗掲揚の不当な制限、就労拒否又は組合脱退の勧奨等を為し、且つ昭和三四年六月二五日組合員全員を解雇したことは、貴支部の団結、運営に対する支配介入、不利益取扱等の不当労働行為であつたことを認め、今後かかる行為を繰り返えさないことを誓約します。

右は埼玉県地方労働委員会の命令により掲示します。

昭和 年 月 日

株式会社天田製作所

代表取締役 天田勇

総評全国金属労働組合埼玉地方本部

天田製作所支部

執行委員長 松本博殿

(三) 被申立人会社は、前項の誓約文の掲示をこの命令を受けた日から三日以内に履行し、その履行の状況を遅滞なく埼玉県地方労働委員会に文書を以て報告しなければならない。

(四) 申立人らのその余の申立を棄却する。」

この命令書は昭和三五年三月二九日両当事者に交付された。

この命令に対し、会社はこれを不服として昭和三五年四月六日に本件申立人中央労働委員会(以下「中労委」という。)に再審査の申立を行なつた。中労委は前記再審査申立について審査の結果、昭和三六年五月八日付で、つぎのとおりの命令を発し、命令書は再審査申立人には昭和三六年五月二〇日、再審査被申立人には同月二〇日および二一日にそれぞれ交付された。

「(一) 初審命令第一項についての本件再審査申立を棄却する。

(二) 初審命令第二項および第三項をつぎのとおり変更する。

再審査申立人会社は、下記声明書を、本命令書交付後すみやかに、たて五〇センチメートル以上、よこ八〇センチメートル以上の木板または白紙に墨書して、再審査申立人会社川口工場食堂内の従業員の見易い場所に五日間掲示しなければならない。

声明書

当会社は、昭和三四年六月総評全国金属労働組合埼玉地方本部天田製作所支部の組合旗掲揚に際してとつた行動、支部組合員に対する脱退勧奨およびその後の支部組合員に対する就労拒否、解雇等の行動が、いずれも不当労働行為であつたことを認め、今日以後同支部の労働組合活動に干渉しません。

昭和 年 月 日(掲示の日)

株式会社天田製作所

代表取締役 天田勇」

2 上記命令に対し、本件被申立人株式会社天田製作所は、昭和三六年六月一七日再審査命令の取消を求める行政訴訟を提起し、前記事件は御庁昭和三六年(行)第五五号として目下審理中である。

3 昭和三四年六月の解雇により、現存支部組合員らは、いずれも本来の職務(またはこれと同等職)に従事せしめられず、多大の精神的圧迫をうけているのである。

なるほど、疏甲第二号証によれば、東京地裁昭和三四年(ヨ)第二一六〇号事件仮処分判決により、申立外支部組合員五名には、それぞれ解雇から昭和三五年四月分までの「うけるはずであつた諸給与相当額」の約六割および同年五月以降の各月については解雇当時の平均賃金相当額程度が支給されてきているのであるが、再審査命令中原職復帰に関する部分が前記本案行政訴訟事件判決確定に至るまで実現されず放置されることになれば、この命令によつて救済された労働者の精神的および経済的圧迫(解雇当時の平均賃金額のみの支給では、解雇後の昇給額および賞与額が見込まれておらないので、賃金月額においては著るしい切り下げとなつており、これが原職復帰により是正されることは当然期待できる。)に加えるに支部組合員がすべて企業外に排除されている現状がそのまま継続するにおいては支部組合の存続すら危ぶまれ、ひいては労働組合法の立法精神がまつたく没却されるおそれが大きい。以上の諸事情を勘案し、昭和三六年七月一九日第三九五回公益委員会議において労働組合法第二七条第七項の規定による申立をなすことを決議した(疏甲第三号証)。

よつて、ここに本申立に及んだ次第である。

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